3-3『奇妙な冷やかし』



凪美の町から西に数百メートル地点。
凪美の町から離れた木立の中に、一両の小型トラックが姿を隠していた。
辺りは完全に暗くなり、夕方に振りだした雨も強さを増していた。
トラックの車内には隊員Eと隊員I、輸送Cと通信、そして草風Fの姿があった。
暗い車内には、雨粒が幌を叩く音が響く。
その中で彼等は、ライトに照らされた地図を広げ、それを眺めていた。

草風F「宿は全部で7箇所。市場は西側の区画だから、そのあたりの宿に泊ってる可能性が高い」

草風Fが地図を示しつつ、隊員等に説明をしている。

草風F「壁を越えるのも西側からがいいと思う。あそこは監視の手が薄いはずだ」

輸送C「だといいがな。門の付近はえらい物々しさだぞ」

運転席の輸送Cは双眼鏡を覗いていた。
視線の先、数百メートル先には凪美の町の南西側の門が見える。
門付近は、いくつものランプが煌々と辺りを照らしており、その中で衛兵達が剣を下げ、警備を行っていた。

草風F「西側は壁の距離が長くて監視の手が行き届きにくい。警備に回せる人数にも限りがあるだろうから、隙はでき易いはずだ」

隊員E「わかった、そこから侵入を試みよう。厳しいようなら、その時に別の手段を探そう」

隊員I「面倒な事になったもんだよ」

隊員Iは悪態を吐いて現状を嘆く。
紅の国の商議会は燐美の勇者一向と同行している邦人を、凪美の町にて捕縛しようとしているらしい。
そして勇者一行と邦人等は、既に凪美の町へ入っており、一方の商議会は、町で捕縛の準備を整えている。
この事態を重く見た一曹等は、レンジャー資格を保有する隊員を町へ侵入させ、
邦人を保護、回収する決定を下した。

隊員E「ぼやくな、装備をもう一度確認しろ」

隊員Eは隊員Iに装備の確認を命じ、自身も自らの装備の確認を行う。
町へは隊員Eと隊員Iの二名が潜入する事になっている。
両名は邦人が滞在していると思われる箇所を捜索。
発見および保護が完了次第、航空軍のヘリコプターが飛来し、回収する手はずとなっている。

輸送C「警備も厳重だが、町自体も堅牢そうだな。辺鄙な所にあるわりに」

草風F「ああ、昔は国境を守る大事な城塞だったんだ。
    紅の国が誕生して国境線が変わってからは、中途半端な位置にある無用の城塞になり、
    きな臭さとも無縁になっていったんだけど」

草風Fが町の歴史を語る。
彼は過去に凪美の町に住んでいたことがあるという事で、潜入部隊の補佐のために同行して来ていた。

草風F「……なのに、いくらか前から警備が再び厳重になりだした。
    こちらも疑念は抱いていたんだが……クソ、連中の企みの温床になってたなんて。
    それに、よりにもよって勇者を捕らえるだって?世界を敵に回す愚かな行為だぞ……」

草風Fは苦々しい口調で発した。
当初は自動車や諸々の装備に驚いていた彼だったが、緊張感に包まれた車内で、
なおかつ町の有り様を目撃した今、その表情は隊員同様張り詰めた物になっていた。

隊員I「敵に回せるだけの当てができたって事なんだろ。例の魔王軍とやらに手もみして擦り寄ってよ」

草風F「ああ……恥さらし共め」

隊員E「それも手放しにはしておけない事だな。だが今は邦人の確保が先だ、行くぞ」

隊員Eが自分の小銃を手にし、小型トラックの後部扉を開く。
そして隊員Eと隊員Iは、雨が降る外へ繰り出した。

隊員I「やる気が失せるねぇ」

隊員E「城壁を越えたら一度連絡する。こっちも警戒を怠るなよ」

通信「了解」

隊員Eが後部扉を閉め、両名は走り出した。
小型トラックを離れた両名は最初、茂みや窪みに身を隠しつつ、城壁を遠巻きに見ながら、城壁に沿うように進む。
城壁上に点在する監視所を避け、潜入できそうな箇所を見つけるためだ。

隊員E「……あの辺りで行ってみるか」

監視所の間隔が長くなっている箇所に当たりをつけ、城壁へと接近する。
先ほど同様、茂み等に身を隠しながら進み、城壁の根元までたどり着いた。

隊員I「大丈夫そうか?」

隊員E「待て。南から明かりだ」

城壁上の南側に、微かに明かりが見えた。
おそらくランタンを手にした見張りだろう。
二人は城壁に張り付き、息を潜める。
光は真上まで近づき、雨音の中に微かに話し声も聞こえてくる。

隊員E「……」

だが結局見回りらしき人物は、壁の下を覗き見るどころか、足を止める事すらせずに通り過ぎていった。

隊員E「……行った」

隊員I「雑な見張りだこと」

隊員E「今のうちだ、急ぐぞ」

隊員Eは布で来るんでいた小銃と、鍵爪を取り出した。

隊員I「使いモンになるんですかね、それ」

隊員E「そうじゃなきゃ困る」

鍵爪はただの鍵爪ではなく、軸の部分に炸薬を取り除いたてき弾が括り付けてあった。
さらに鍵爪には音が立たないよう、布が巻きつけられている。
この作戦のために、武器科によって急遽作成された物だ。
隊員Eは小銃を地面に立て、銃の先端に鍵爪付きてき弾を装着する。
そして銃口を城壁よりもやや高い位置に向け、隊員Eは引き金を絞る。
鍵爪を付けたてき弾が打ち出され、結ばれたロープがそれに続いて弧を描いて飛んで行く。
そして城壁上に着地した鍵爪は、みごと城壁の縁に引っかかった

隊員E「……よし」

隊員Eはワイヤーを引き、壁をよじ登る上で支障が無い事を確認する。

隊員E「俺が先に行く。援護しろ」

隊員I「了解」

隊員Eはワイヤーを握り、壁を登り始めた。
今のところ気付かれてはいないようだが、もし見張りに発見され
ロープを切られでもすれば、地面へたたきつけられる事になるだろう。
かといって下手に焦って足を滑らせても、たどる結末は同じ。
どちらもごめんだと、隊員Eは慎重に、しかし最低限の動作で
壁を登ってゆき、やがて壁の上までたどり着いた。
隊員Eは機関拳銃を片手に握り、城壁上の通路に半身を乗り出し、すばやく周囲を確認する。
幸いにも、周囲に見張りの人間が潜んでいるような事は無かった。

隊員E「……よし」

隊員Eは城壁上の通路に降り立ち、下に居る隊員Iに手招きで合図を送った。
下に居る隊員Iが壁を上り始め、隊員Eは隊員Iが上りきる間、周囲を警戒する。

隊員I「やれやれ…ッ、これは俺みたいなのの仕事じゃ無い気がするんですがね」

上ってきた隊員Iは、通路に足をつけると小声でそうぼやいた。

隊員I「中央の緊急展開連隊とか、特殊なんたらの領分だ。正直、勘弁してもらいたいですね」

隊員E「“特殊戦闘隊”だ、わざとらしく間違えてるんじゃない。
     その彼等が今ここにいないから、我々がやるしかないんだろうが」

隊員I「失礼。そんな大層な任務を承ったんだから、ありがたく思うべきでした」

無表情な顔で、皮肉を淡々と吐き出す。

隊員E「いい加減黙らないか隊員I。見張ってろ」

隊員I「了解了解」

隊員Iは布に覆われた自分の銃を取り出す。
現れたのは狙撃スコープをつけた、※99式7.7mm小銃だ。

(※世界大戦中に開発された九九式小銃が名を変え現在も使われている。
  ただし配備されている物は戦後に再生産された物)

スコープを覗き、通路の先にある監視所を視界に収める。
監視所には城壁上から町へ下りれる階段があり、階段の各所には複数の見張りが立っていた。

隊員I「内側のほうが厳重そうだな。隊員E二曹、奴等どうやら、外敵じゃなくて内側からの脱走者を警戒してるようです」

隊員E「勇者を捕まえるにしても大げさだな、他にも何かありそうだ」

隊員Eは回収したロープから鍵爪を外し、ロープの端を城壁の反対側の縁へ結ぶ。
そして、今度は城壁の内側に下ろす。

隊員E「また援護頼むぞ」

隊員Eはロープを両手で掴んで城壁から乗り出す。
そして城壁をラペリングにより降下して行った。
降り立った先は薄暗い路地裏で、人の気配は無い。
だが巡回が回ってくる可能性もあり隊員Eは隊員Iが降下してくるまで周囲を警戒する。

隊員E「準備しろ、これから町に出る」

隊員I「分かってます」

両名は背嚢からマントを取り出した。
それはこちらの世界で雨具兼防寒具として使われているマントであり、草風の村での住人から借り受けたものだった。
先に背嚢や、武器を始めとする装備を身に着け直す。
機関拳銃を肩から提げ、即座に発砲できる位置に保持し、最後にそれらを全て覆い隠すように、マントを羽織った。

隊員I「こんなんでごまかせるんですかね?」

隊員E「戦闘服や装備を見せびらかしながら歩くよりはマシだ。行くぞ」

両名は歩き出し、薄暗い町並みへ溶け込んでゆく。



燐美の勇者達が宿泊している宿の一室。
だが、今そこにはベッドに座る院生の姿しかなかった。
燐美の勇者と麗氷の騎士の姿は部屋内には見えない。

院生「……」



話は数時間前のまで遡る。
必要な物の買出しを終えた燐美の勇者と院生は、麗氷の騎士との待ち合わせ場所まで向っていた。

燐美の勇者「ッ!」

だがその途中で、燐美の勇者が唐突に顔色を変えた。

院生「燐美さん?」

突然立ち止まった燐美の勇者を、院生は覗き込み声をかける。
だが燐美の勇者は院生の言葉には答えず、胸にあるペンダントを握った。

院生「ッ!燐美さん……それ……」

燐美の勇者が握る、星の結晶のペンダント。
保有者やその近しい人物に何らかの事態が起こった時、漠然とではあるがそれを伝えてくれる効果を持つ。
草風の村での一軒で、院生もその効果は知っていた。
そしてそのペンダントを今握ったことと、燐美の勇者の表情との因果関係も。

燐美の勇者「うん、ペンダントが知らせてきた……対象は、この感じはたぶん麗氷……!」

院生「麗氷さん……!?麗氷さんの身に何かが……?」

燐美の勇者「迫ってるのか、あるいはもう起こっているのか……とにかく急ごう!」

ペンダントの気まぐれな効果を、少し恨めしく思ったのも束の間。
燐美の勇者と院生は、待ち合わせ場所へと走り出した。



その後、待ち合わせ箇所に向った二人だったが、麗氷の騎士の姿はそこには無かった。
周囲を探し回り、道行く人に麗氷の騎士の事を尋ねるも、彼女の行方は知れず。
先に宿に帰っている可能性も考え、一度宿に戻ってみた二人だったが、
そこにもやはり麗氷の騎士はいなかった。

燐美の勇者「……院生さん、ボクはもう一度麗氷を探しに行く」

宿に戻ってきて早々、燐美の勇者は院生にそう言った。
困惑する院生をよそに、燐美の勇者は慣れた手つきで装備を整えてゆく。
先程までもある程度の備えはしていた彼女だったが、今行っているのは完全な戦闘時の装備だ。
胸当てや篭手、肩当てに膝当てを装備し、荷物は戦闘時に必要な最低限の量に抑える。
武器はいつも使用している剣の他、短刀を複数、身体の各所に仕込む。

院生「あの、燐美さん。私はどうすれば……」

燐美の勇者「院生さんはこの宿にいて。具体的な事はわからないけど、荒事になる予感がするんだ」

院生「は、はい……」

普段の様子と一変した燐美の勇者に、院生は戸惑う。

燐美の勇者「……よし、これで全部!院生さん、ボクは今から……」

全ての準備を追え、院生に出発の旨を告げようとする燐美の勇者。
だがそこで、自分をみつめる院生の顔が、不安で青ざめている事に気付いた。

燐美の勇者「はぁ……いけないいけない」

院生「燐美さん……?」

燐美の勇者「ゴメンゴメン、院生さん。院生さんも不安だっていうのに、ボクばっかりお構い無しに先走っちゃったね」

院生「い、いえ!そんな……ッ!」

燐美の勇者は慌てる院生をなだめるように、院生の頭を撫でた。
背は院生のほうが高いので、燐美の勇者が少し背伸びする形になったが。

燐美の勇者「大丈夫。正直、こんな事も初めてじゃないんだ。麗氷は必ず見つける。そして、すぐに院生さんの所に戻ってくるよ」

院生「……ごめんなさい燐美さん。私、こんな時に何も出来なくて……」

燐美の勇者「はは、やっぱり院生さんはいい子だね。院生さんはここで帰りを待ってて欲しいな。
       それだけでボクのやる気も上昇だよ!」

院生「……はい!」



そして燐美の勇者は再び町へ繰り出して言ったのだ。

院生「……燐美さん、麗氷さん」



隊員E、隊員I両名は路地を縫って進み、城壁から一番近場の宿屋にたどり着いた。
奥まった所にある宿屋で、周囲の人通りも少ない。
二人は宿の入口まで近づき、隊員Eが入口の横にある窓から、店内の様子を伺う。

隊員E「カウンターに店の人間が一人、他には見えない。手はず道理だ。隊員I、裏口から侵入して中を調べろ。
    俺はここからカウンターの動きを見張る」

隊員I「了解」

隊員Iが宿の裏へと回り、隊員Eは再度宿の内部へ目を向ける。
中では、宿屋の人間がカウンターで何らかの作業をしている。
その後ろには二階へ続く階段と、一階の各部屋へ通じているであろう廊下への入口が見えた。

隊員I『裏口から侵入。今から一階を調べます』

十数秒程度で、インカムに隊員Iからの通信が入った。

隊員E「了解、ヘマはするなよ」

カウンターの人間は変わらず作業に集中している。
その背後で、廊下の入口を横切る隊員Iの姿が一瞬見えた。
それからまた十数秒経って、隊員Iから報告の通信が入った。

隊員I『一階は全部屋カラです。二階に上がります』

隊員E「少し待て、店の人間の作業が終わりそうだ。念のため、彼がカウンターからどくまで待て」

隊員I『了解』

やがて店の人間は作業を終え、カウンターを離れる。
しかし、あろう事か彼の足の向いた先は、隊員Iの潜む一階廊下の入口だった。

隊員E「まずい、そっちへ行くッ!。待ってろ、俺が足止めするからその間に行け」

早口でインカムに言うと、隊員Eは宿屋の入り口をくぐった。

隊員E「こんばんは、すいません」

店主の視線は、突如入ってきた隊員Eへと向いた。

店主「ん?はい、いらっしゃい。お泊りで?」

そして突然の奇妙な来訪者を訝しみながらも、客に対する決まり文句を発した。

隊員E「いえ、申し訳ない。宿泊ではなく、少々道をお尋ねしたくて」

店主「なんだ……そういうのは警備隊の詰め所で聞いてくれ」

客では無いと分かると、店主はあからさまに嫌そうな表情を浮かべそう言い放った。

隊員E「その詰め所の位置すら分からなくて困ってるんだ。お願い出来ないか?」

店主「そう言われてもねぇ」

隊員Eと店主は会話を続ける。
その隙に隊員Iは二階への階段を上がって行った。



二階へ上がった隊員Iは、各部屋をチェックしてゆく。

隊員I「ここも空き部屋、寂しい宿だな」

失礼にも宿の状況を鼻で笑いう隊員I。
そしてあろうことか、扉の閉まっていた次の部屋をノックもせずに開け放った。

客A「わぁッ!?な、なんだあんた!?」

客B「きゃぁ!?」

突然押し入ってきた人間に、中にいた客が驚く。
だが隊員Iはマントの下で機関拳銃を構えながら、おかまいなしに部屋内に踏み込んだ。

客A「お、おいあんた!」

部屋にいた客の咎める声も無視して、部屋内を見渡す。

隊員I「すまんな、部屋を間違えた」

そして保護対象がいないことが分かると、隊員Iはシレッとそれだけ言い残し、部屋を後にした。
その調子で、明らかに人の気配の無い部屋は軽く覗くだけで済まし、閉まっている部屋は問答無用で開けて、押し入り確認。
そして中にいた客に、謝罪と思えない謝罪をして部屋を出る。
そのような荒い捜索を繰り返し、二階への部屋を全て漁っていった。



店主「だからぁ、この分岐路は違うんだ。その一つ先の分岐で右に曲がるんだよ」

一階では隊員Eが店主との会話を引き伸ばしていた。
地図の見方に疎い振りをし、店主の説明を長引かせる。

隊員I『隊員E二曹、ここは外れです』

インカムに隊員Iからの通信が入る。
どうやらこの宿に保護対象はいなかったらしい。
隊員Eは報告に対して、インカムのマイクを二度叩いて答えた。

店主「で、ここをまっすぐ行けば到着だ。いい加減分かったか?」

隊員E「ええ、分かりました。これでたどり着けそうです」

店主「ったく、客でもないヤツにとんだ時間を取られちまった」

心底嫌そうに言う店主。
だが口こそ悪いものの、彼はわざと分からない振りをしている隊員Eに、根気よく丁寧に説明してくれた。

隊員E「本当に助かりました。次にこの町を訪れた時は、こちらに泊らせていただきますよ」

店主「よく言う……ほら行った行った!」



隊員Eは出入り口から外へ出た。

隊員E「店主には悪い事をしたな……隊員I、裏で合流しよう」

インカムにそう発し、宿の裏へと回る。
裏に行くと、ちょうど隊員Iが二階の窓から飛び降りて来た。

隊員I「こんな回りくどい事を、最悪あと六回もやらないといけないのか」

隊員E「この町は連中のアジトも同然だ、宿屋にも手を回しているかもしれない。
     堂々と聞いて探し回って、その事を警備隊に知らされでもすれば面倒な事になる」

隊員I「今やってる事と、あんまり大差ないと思いますがね」

隊員E「危険な要素は少しでも減らす。それと隊員I、無線の向こうが時折騒がしかったぞ。次からはもう少し静かにやれ」

隊員I「気をつけましょう」

二人は物陰に隠れて地図を広げると、街の外で待機する小型トラックへ無線を繋ぐ。

隊員E「アルマジロ1-2、ロングショット1だ。侵入地点より一番近い宿……えーと3番の宿だ」

地図の宿に振ってある番号を伝える。

隊員E「そこをクリア、邦人は確認できなかった。これより2番の宿に向う」

通信『了解、ロングショット1。ん?ああ待って下さい、草風Fさんが伝えたい事があると』

隊員E「?」

一瞬雑音が入った後、草風Fの声が聞こえてくる。

草風F『この耳当ての先端に話せばいいのか……?あー、聞こえてるかい?
    次の宿に向うなら、その前にある十字路を渡る必要があるんだが、その近辺は狭くて人の通れない路地が多い。
    大通りに出て、しばらく歩く必要があるかもしれない』

隊員E「大通り……今の宿から東に行った所にある道ですね?」

草風F『そうだ。それと大通りは警備隊も普段から使ってる。もし大通りを使うようなら、十分気をつけてくれ』

隊員E「分かりました、ありがとうございます」

草風F『あぁ、気をつけてな』

隊員E「アルマジロ1-2、今草風Fさんが教えてくれたルートを試してみる。十字路を越えたら一度連絡を入れる。交信終了」

通信を終え、隊員Eは地図を畳んでポケットにしまう。

隊員E「大通りに出て、十字路を越える。行くぞ」

そして二人は宿を後にした。



大通りに出るべく、再び路地を縫って行く二人。

隊員E「待て」

だがその途中で隊員Eが静止をかける。
進路の先に人影が現れたからだ。
人数は二人、会話をしながらこちらへと歩いてくる。

隊員E「おそらく警備兵だ。隠れろ、やり過ごす」

二人は来た道を少し戻ると、脇道に入って積み重ねてある木箱に身を隠す。
やがて人影は、二人の隠れた脇道の近くまで歩いてくる。
どちらも町の入り口にいた見張りと同じの服を着ていた。

隊員I「やっぱりここの連中か」

隊員E「ああ」

警備兵達は、二人の隠れた場所をそのまま通り過ぎて行った。

隊員E「行ったな、行くぞ」

警備兵をやり過ごし、再び路地を進んでゆく。
やがて路地の先に明かりが見え、二人は大通りへ到着した。
大通りはとても明るいとは言い難いが、等間隔で明かりが灯され、町の人々が行き交っている。

隊員E「行くぞ、人ごみに紛れるんだ」

マントについているフードを被り、二人は大通りへと踏み出した。
雨が降っているため、道行く人々は多くがフードや帽子を被り、
顔を俯き加減にして道を行き来している。

隊員E「前方にいる集団が分かるか?その後ろを着いて行くぞ」

隊員Eは前方に、固まって歩く町人の集団をを見つけた。
二人はさりげなくその後ろにつき、十字路を目指して歩く。

隊員I「……二曹、前方から警備兵らしき連中。分隊規模」

隊員E「ああ」

しばらく進んだとき、前方から隊列を組んだ8人程の部隊がこちらに向って来るのが見えた。
あれもパトロールの警備隊だろう。

隊員E「下手な動きは見せるな」

二人が紛れている団体と隊列は次第に接近する。
雨の中の行軍のせいか隊列の兵達にも、
帽子を目深に被り、俯き加減になっている者が散見された。

隊員E「……」

やがて団体と隊列はすれ違う。
隊列の兵達の内の何人かが、こちらの団体に目を向けたが、すぐに目線を戻し、こちらを怪しむような者はいなかった。
隊列はそのまま団体から離れてゆき、薄暗い町並みの中へと消えていった。

隊員E「……やり過ごしたか」

十分距離が離れた事を確認し、少しだけ安堵する。

隊員I「やる気のなさそうな連中だ」

隊員E「油断するな。十字路を渡ったらすぐに路地へ身を隠すぞ」

二人の紛れる団体はやがて十字路に到達し、何事も無く渡り切った。
二人は十字路を渡りきると、団体と静かに距離を離し、近くの路地へと身を隠し、次の目的地へ向けて駆け出した。

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